ワークライフバランス
2012年に医大を卒業後、大学病院での臨床研修を経て現在は卒後14年目の医師として後輩の指導にあたりつつ、3児の母でもある井上陽子先生に現在の業務やワークライフバランスを中心にお話を伺った。
–医師を志した動機を教えてください
父が循環器内科医として開業しており4歳くらいの頃から父の訪問診療について行くなどしていたこともあり医師という職業が身近に感じられていました。訪問先の患者さんに可愛がってもらいつつも父の診察を見て育ったことで、自然と医師になりたいという気になりました。
私には年の離れた兄姉がいるのですが、2人が医師にならなかったこともあり、開業医の父の期待を裏切れないということもあったのかもしれません。

–どんな生徒でしたか?
中学生、高校生の頃はダンスに明け暮れていました。めいっぱい楽しんでいたこともあり医大受験のための勉強には身が入らず受験前から浪人しようと考える始末で、親不孝者だったかもしれません。ですが一度しかない高校時代をしっかりと謳歌できたと思います。
–医学生時代を教えてください。
一浪をへて何とか聖マリアンナ医科大学と北里大学、愛知医科大学に合格し、迷いつつも最終的に実家から最も近い本学に進学しました。スキー部とダンスサークルに所属し、勉強そっちのけで大学生活を謳歌していました。正直、医大での勉強はできる方ではなく留年したらどうしようと不安になるような成績でした。しかし病院実習がはじまった5年で患者さんと直に接する機会を持ち、目の前の症例について調べたり勉強したりするようになったことから急激に成績が伸び、そのまま国試に合格することができました。
このころの私は未だどの科に進むかなどは一切考えていませんでした。
–総合診療科に進むきっかけになったのは?
大学卒業後の臨床研修先は、横浜市西部病院を選びました。三次救急病院でありつつも研修医の数が多くなく、近い距離で指導医から学べるのではないかと考えたからです。
研修医1年目までは乳腺外科や耳鼻咽喉科、整形外科といった外科領域の科に憧れや魅力を感じ、じっくり考えるイメージの内科は自分には向いていないと思っていました。ですがだんだんと診療科ごとのテリトリーというものに違和感を覚え始めてもいました。
そんなことを感じつつ、1年目の終わりに救急科を、2年目のはじめに総合診療内科をローテートしました。救急科では臓器や領域にとらわれることなく全身を診ることへの奥深さを学び、総合診療内科ではとにかく患者さんの声に耳を傾け、診察し、必死で推論して診断に向かう姿勢に感銘を受けました。正直、膨大な学問であり、当然、研修医の私では太刀打ちできませんでしたが、いろいろな症状に垣根なく診ていくのがとても楽しかったのです。
–総合診療科に進んだあとのことを教えてください。
2年間の臨床研修を経て聖マリアンナ医科大学の総合診療内科学講座に入局し、最初の勤務先は川崎市立多摩病院(約370床34診療科)でした。イメージとしては2.5次救急の病院です。ここでとくに鍛えられたのは夜間救急外来での当直勤務でした。
搬送からウォークインまで本当にさまざまな患者さんが訪れます。既往歴がない患者さんも多く複数の病状を訴える患者さんを診つづける。なかには精神的に不安定な患者さんもいらっしゃり問診自体が大変なこともありました。夜間だけでなく日中の診療でも日々バラエティに富んだ症例を経験でき、総合診療医としての基礎を養ってくれた時期だと振り返っています。
卒後9年目で大学病院に異動しましたが、そこでは希少疾患を含む難治症例を多く経験しました。敬遠されがちな複数の症状を訴える患者さんやコロナウイルス感染症の後遺症で苦しんでいる患者さんなど、一筋縄でいかない症例も多く毎日が勉強です。ですが、私はこの勉強と推論を組み立て診断に近づける一連の流れが好きなのです。先程も申しましたが総合診療は本当に膨大な学問です。そのため知らないことやわからないことへ常に向き合い、いまでも上級医にサポートを求めながら共に考える時間を過ごしています。
探求心が強い先生にはうってつけの診療科かと思います。
–先生のプライベートを教えてください。
はい。卒後5年目に結婚して卒後8年目で長女を授かりました。つわりや貧血症状が辛かったのですが、妊娠9週目で血液の病気を発症していることがわかり、そのまま2か月間ほど入院しました。
担当患者さんのことや請け負っていた医局業務のことなどすべて投げ出したまま急に仕事を休むこととなり、結局、出産まで自宅療養を要しました。医局にはだいぶ迷惑をかけたはずなのに、上級医や同僚が何度もお見舞いに来てくれて、誰からも苦言をもらうことなく、むしろ本当に大きな助けがありました。薬の副作用で20kg以上太ってしまい分娩は大変でしたが、一緒に辛い時期を乗り越えた「同志」のような存在の赤ちゃんにやっと対面でき感動でした。
育休を1年ほど取得させていただき、復職は化学療法を受けながらとなりましたが、勤務時間や内容についてかなり優遇してもらいました。当時はCOVID-19が大流行中でしたので、医療機関はどこも人手不足・資源不足でパンクしていたと思いますが、体調面から発熱外来に一切携わることなく過ごさせていただきました。
その後、おかげさまで治療は順調に進み、寛解してから今年で5年となりました。次女、そして昨年3女が産まれ、それぞれ産休と育休をいただき、現在は外来診療を中心に勤務しています。当直免除、残業はほぼなしで、保育園行事もすべて参加できています。
大学病院には病児保育可能な保育園もあり安心できるインフラが整っています。こども達がもう少し大きくなって手がかからなくなったら当直や救急対応にも積極的に参加し、今度は私が誰かをサポートする側となりたいと考えています。現在、当科は主任教授自らも当直に入ってくださるなど、手厚いサポートをいただけます。頭の下がる思いです。
どの病院でも同じようなことが可能ではないと思いつつ子ども達を育てることによろこびを感じながら仕事をしています。
モチベーションを保つ方法はひとそれぞれですが、ワークライフバランスが安定していることも大切だと実感しています。

–総合診療に興味のある臨床研修医や医学生にメッセージをお願いします。
総合診療では毎日多彩な患者さんに出会います。時には地味で、泥臭くて、かっこいいとは言えない診療もするかもしれません。難しい症例もありますが、診断できた時や、治療がうまくいった時の喜びは計り知れません。そんな症例を一緒に体験していきませんか?医局員は皆、キャラが濃いですが教育に熱心なメンバーです。まずはぜひ見学に来てください。お待ちしています。

